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〇「学びの21世紀塾」              大分県豊後高田市       

 

1.視察意図

 平成14年度、豊後高田市でこの事業がスタート。
 日本全体で「ゆとり教育」「学校週5日制」が言われる中で、「時代に逆行」と言われながらこの塾を始めた。今となっては「豊後高田市に学べ」と県も認め、積極的に他市に助成するまでになった。この塾を基軸にすえた同市の学力向上の取り組みを視察。


2.事業の概要

 学びの21世紀塾の塾頭は市長。副塾頭は教育長。
 大分県で最古の寺子屋、室町時代の「戴星堂(たいせいどう)」はこの地が発祥。昔から教育の盛んな土地。その歴史をルーツとしながら、「平成の寺子屋」として塾が誕生。

 三本柱  〇いきいき土曜日 〇わくわく体験活動 〇のびのび放課後活動 で構成。

〇いきいき土曜日
 「寺子屋講座」と「パソコン講座」の二本立て。毎月1.3.5土曜日に開講。
 ・「寺子屋講座」
 英会話…幼、小
 数学、国語…中
 そろばん…小1〜3
 算数…小4〜6
 合唱…小・中
 中央公民館、小学校で開催する。
 ・「パソコン講座」
 小学生を対象、各小学校で市民や教員が教える。
 ほかに、
 ・「夏季・冬季特別講座」…中3対象にそれぞれ1週間開講。高校教員OB、塾経営者、進学指導の
  ベテランが講師を務める。
 ・「寺子屋昭和館」…小4〜6対象、宿題や学習支援。退職校長会も支援。
 ・「水曜日講座」…市内6中学校で毎水曜放課後1時間、教員OBが数学、英語の講座。
 ・「テレビ寺子屋講座」…電波環境から、国東半島ではケーブルテレビが大いに活用されている。
  豊後高田市でも、小中学生を対象として毎週水、木、土、日曜、テレビ放映。教員、市民、ALT、
  予備校講師が担当し、英会話、英数国の講座。CATV加入率87%。生徒にあらかじめ問題をプ
  リント配布。それに挑戦してから、分からないところをテレビで説明を受ける。
  番組構成は国数英から1科目20分を1コマ、5分休憩、別科目を1コマで45分。
  小5.6対象英語、中学生英会話、中学生国数英の3番組。
  それぞれ年間12回講義、60回放映。

〇わくわく体験活動
 公民館を中心に、地域の達人、地域の市民らが指導者となって展開。
 ・「週末子ども育成活動」…料理、太鼓、スポレク、環境美化教室などで、大人と触れ合う体験
  活動。
  放課後児童クラブと合同の活動。全公民館が開催している。カズラ工芸、芋ほり、水泳、登山、
  注連縄づくりなども。
  毎月2.4土曜日に開催。
  以上ですべての土曜日が使われている。
 ・「宿泊体験スクール」…青少年の家で小6が4泊5日の体験活動。自主性、協調性、思いやりの
  心を培う。
  支えるスタッフは1時間1080円の有償ボランティアで市民100人が登録。地域の教育力向上も
  目指す。

〇のびのび放課後活動
 スポ少加盟31団体を支援。用具購入補助のほか、HPで活躍を紹介など。


3.豊後高田市学力向上推進計画

 「教育のまちづくり」をスローガンに、「地域と一体となった教育」を推進。
 数値目標を明確に掲げ、全国テ、県テ、市テの結果をすべて公表。
 豊後高田っ子の「学びの姿」として、
 ・「分かりたい」「知りたい」「伝えたい」と意欲を持てる。
 ・感性が高まり、問題意識を明確にできる。
 ・見に付けた知識や技能を活用できる。
 ・「できた」「分かった」という喜びをもとにさらに探求する。
 ・学んだことを生かしながら目標を立て、自己の生き方につなげる。
 その具体的な取り組みとして、「学びの21世紀塾」のほか、「昭和の町は教育のまちです」事
 業、「小中連携推進事業」、積極的な文科省、県指定研究事業の推進、加制度の活用、「地域
 人材活用事業」「学校支援地域本部事業」を掲げている。
 そのほかにも、「生きて働く学力向上プラン」、「聴くこと、発信することを大切にした学力向上
 会議」、学校、学級改善のための「授業公開」、管理職による日常的な「授業観察」に取り組む。


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4.感想

 書ききれなかったことをまず補足しますが、前記「学力向上会議」は年2回開催、「授業公開」は毎月、そして管理職の「授業観察」として、校長は毎日、授業参観を行っているそうです。
 また「学校支援地域本部事業」の冊子もいただきましたが、ここには、「地域が学校や子どもとどう関わればよいのか」を、住民に読んでもらえるよう、工夫してあります。いま300人のサポーターがいるとのことです。
 視察当日は写真も交え、とても親切なスライドでご説明をいだきましたが、宿泊体験スクールでは、子どもたちが魚をさばいている光景が印象的でした。こういう姿は、まず見られないのではないでしょうか。4泊5日の体験から帰ってきたわが子はずい分変わったなあと、家族が感嘆するそうです。
 のびのび放課後活動事業では、用具購入補助というとお金だけの話のようですが、「このように育ててください」といった、実のある意識の共有があり、「スポ団体も手を携えて」の教育環境が構築されているとのことです。
 寺子屋昭和館では退職した校長先生がベテランぶりを発揮。ここに来たらみんな勉強している、という緊迫したムードがあるそうですし、水曜日講座は「中一ギャップ解消」にも役立ち、また「困ったときは先生に指導を受けよう」という気風が、自然に出来上がっているとのことです。
 さらに、夏休みと冬休みの特別講座には、一般の学習塾の先生も協力しているというのは驚きです。しかしこれは、全市を挙げての大事業ゆえに、その盛り上がりはかえって私塾に子どもを呼び込むことにもつながるから、決して不利や不利益ではない、と、そのように判断されているそうです。
 国・県が行う研究事業は、ふつう全市で1校取るか取らないかというものなのだそうです。が、豊後高田市の方針は「両手を挙げてでも取れ」。全校が取り、しかも1校が複数のテーマを受ける。それは、そもそも自らがお金を出してやらねばならないことを、国、県がお金を出してやれるのだから、という発想。「学力向上推進計画」の巻末には、その具体名がずらりと並んでいました。そしてその計画冊子のしめくくりに、ゴチック体で力強く、宣言にも似た記述がありました。
 わたしたちは、
 ・「子ども」「保護者」「地域」からの厚い信頼に応え、成果が出せる。
 ・子どもの変容を見逃さない感性を備えた学校教育力を向上させる。
 ・「子ども」「保護者」「地域」とともに体験や経験したことで伝え合える。
  学校、教職員、市教委をめざします。
 いただいた説明によると、最初から順風ではなかったそうです。教職員の中でいざこざあり、学校を開こうという気風もなし。今はまったく、それがなくなりました。
 当初、教育委員会からは「60万円程度の予算がほしい」と切り出したところ、市長が「600万でやれ」と答えたのだそうです。予算取りではこのように、市長の全面的なバックアップがありました。
 以上、視察で説明をいただいたお話を懸命にメモした内容を、ほぼすべて、記しました。
 しかしどうしても、言葉にはし尽くせないものがあります。それは最初から最後まで、視察会場に同席いただき、折に触れて説明者のフォローをし、冗談で和ませながら、視察の内容を濃いものにしてくださった教育長さんの人となりです。
 庁舎を後にするまで見送ってくださった方々の姿を、私たち視察一行はのちのちまで、親切にしていただいたと、何度も喜びあいました。
 これだけ教育環境が疲弊し、問題が未解決のままで山積していて、なお地域に開かれた学校が実現できない、それはひとえに教育委員会という制度そのものにあるのだろう、と、私のような門外漢はそのように考えてしまうのですが、いかがでしょうか。
 このたび豊後高田市を訪問し、たしかに「そうとは限らない」ことを認識しました。けれども、です。
 どうしても、「マネはできないなあ」という感慨が残ります。ものすごすぎる、という感慨が。
 また「国の文科省が変わるべきなのだ」という片付け方もできなくなります。このような事例があるのですから。「時代に逆行だ」「バカなまねはやめさせろ」と言われながらも週5日制というゆとり制度に「反抗?」した、その成果が、私には、実際の学力、進学率に出ている指標数値以上に、何百人の市民が「教育」というものに携わっている、その姿こそが成果だと、思えてなりません。
 これならば、いやこれでこそ、教育委員会の存在価値がある、そのようにも思いました。
 まちづくりはひとづくり、と一言で言いますが、それがここに具現している。
 平成25年には10億円の予算をかけて、図書館を建設するとも話されていました。
 見上げるばかりの教育のシステムと殿堂が構築されることでしょう。生れて来た子どもたちに、私たちは責任を追う。地方の時代には、日本と外国の差異ではなく、国内のどこの自治体に生れたか、育ったかによって幸不幸が左右される、そのように、これからはなっていくのだろうなあと印象を受けました。
 責任はいやまして大。しみじみと、そう感じます。


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